○年保証のコーティングが保証していること

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新車購入時に、ガラス コーティング を施工される方は多いと思いますが、施工費用は5万~15万程度であるかと。納車時に渡される施工証明書は、保証書も兼ねているのが一般的なようです。しかしながら、ほとんどのオーナーが、この保証書の本当の意味を理解されていないようです。

保証書の内容を熟読すれば理解できるはずですが、人間は耳障りの良いキーワードに影響されがちです。「5年保証」という単語を見た瞬間に、コーティング皮膜が5年間保証されると理解するはずです。誤解を招きやすい表現であるのは事実ですが、あくまでも読み手の勝手な勘違いに過ぎません。

保証書の記載事項を要約すると、このような内容であることが一般的です。

保証期間中に「塗装面に著しい劣化が生じた場合」は、コーティングを再施工する。ただし、樹脂部分等の劣化しやすい箇所は除く。

え????、と思いませんか?

そうです。コーティング皮膜そのものを保証しているのではなく、クルマの塗装面の輝きを保証しているのです。日産自動車のホームページ内での「5YEARS COAT」に関する説明では、このように記載してあります。「施工面の光沢を日産が5年間(新車の場合)保証します」と。要するに、日産自動車が保証しているのは、塗装面の光沢ということです。

自動車メーカーの高度な塗装技術による塗装は、コーティング施工の有無に関わらず、5年程度の短期間で著しく劣化するような代物ではありません。そもそも、常に過酷な環境下に置かれる前提の、自動車という乗り物に施す塗装ですから、脆いはずがないのです。

仮に、コーティング非施工車の塗装が5年以内に著しく劣化したならば、保証云々の話ではなく、瑕疵担保責任や損害賠償責任を追及されても不思議ではありません。

保証書には、さらに重要な記載事項があります。保証対象外に関する説明です。どのような免責事項が記載されていると思いますか?

<保証対象外になる場合>

  • 年1回の定期点検を受けなかった場合

    誰がどのような方法で、どのような点検を実施するのかといったことに疑問はあります。ただ、保証条件として、点検という行為は一般的ですので、軽く受け流すことにします。

  • タオルや雑巾などの硬い布地を使って洗車した場合

    非常に曖昧な表現であると言わざるを得ません。非常に重要な免責事項に関する説明ですから、もっと具体的に記載すべきです。

    ちなみに、マイクロファイバークロスを使用しても、力の加え方を間違えれば、コーティング皮膜なんて簡単に損なわれます。逆に、普通の温泉タオルを使用しても、理想的な力の使い方をすれば、コーティング皮膜を損なうことはないでしょう。

    カーケアの専門家であれば、使用するクロスの生地の硬さよりも、クロスの使い方が重要であることを理解しているはずです。つまり、この保証書の免責条項を起案した方は、カーケアに関する見識に乏しい方であると推察されます。

  • メンテナンスキット以外のケミカルを使用した場合

    コーティング施工業者は、本当にメンテナンスキットだけで、クルマの美観を維持できると考えているのでしょうか?

    カーケアの到達目標が、保証対象となる「塗装面に著しい劣化がみられた場合」に該当しない程度で維持することならば、このメンテナンスキットだけでも可能です。ただ、シミ一つ無い最高のコンディションで維持することを目指すのであれば、このメンテナンスキットだけでは到底不可能です。

  • コンパウンド入りのワックスを使った場合

    この免責条項は、異論はありません。

  • 煤煙、降灰、樹液、花粉、酸性雨、薬品、鳥糞、塩害、鉄粉、飛石、虫の死骸、ペットの糞尿等の外的要因

    この免責条項には言葉を失います。これらの外的要因こそが、クルマの塗装面の輝きを奪う元凶であるといえます。つまり、塗装面の光沢が失われる要因として、これら以外の要因があるとしたら教えていただきたいくらいです。

保証書の内容は、なかなか刺激的であると思いませんか?

外的要因の免責条項により、この保証書の保証対象が実質無くなってしまいます。保証対象外である「外的要因」以外の要因で、塗装面の光沢が著しく失われるならば、塗装自体の瑕疵くらいしか考えられません。

元損保社員である当社代表者が、この保証書の本来の目的を考察してみました。

この保証書が、その役割を発揮するのは事故発生時です。損傷個所の鈑金塗装を行なう際、この保証書によって、コーティングを再施工してもらえるのです。

保険金支払時の損害査定は、損害保険会社のアジャスターによって厳格に行われます。そして、その際の原理原則は「原状復帰」です。つまり、事故により損害を被った財物の修復費用(再コーティング費用)が、車両保険金として認定されるのです。

補償対象は実在する財物であり、「塗装面の光沢を維持する効果」といった抽象的な事象を補償することはありません。ですから、事故発生時点で既に喪失している財物(コーティング皮膜)が、保険金支払いの対象になることはありません。

当社の感覚(目視不可能なのであくまでも感覚)では、コーティング皮膜の持続期間は、適切なメンテナンスを施したとしても数か月程度です。5年間もの長期間、残っていることはあり得ません。ただ、コーティ ング皮膜は目視できないので、そもそも確認できないのですが・・・。

つまり、施工の3年後に事故が起きた場合、コーティング皮膜が残っていないので車両保険金は支払わないはずです。ただ、この保証書の存在によって、保証期間内であれば、コーティングの再施工費用が保険金として払われるのです。

厳格な損害査定をする損害保険会社が、被害対象物の現物確認をすることなく保険金を支払うのです。そして、その保険金によって、コーティングが再施工される。事故を起こしたオーナーは、費用を支払わずにコーティングを再施工してもらえます。また、自動車ディーラーも、受領した保険金を施工費用として売上計上できるわけです。当事者全員がハッピーです。

外的要因の免責条項によって、本来の保証を受けることは期待できません。ただ、事故発生時に再施工費用を保険金として受け取ることができることこそが、コーティング施工証明書の真の役割なのかもしれないと推察します。そのように考えないかぎり、この保証書がなんのために作られたのか、理解することができないからです。

自動車業界と損害保険会社が創り上げた、なんとも不思議な仕組みだと、ただただ感心します。

コーティング 未施工車